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Vol.24 肺がん告知せず(その2)

(前の記事の続き)この患者さんのご主人とご両親には本当の診断と病状を詳しく説明し、今回の化学療法(抗がん剤療法)が効かなければ余命は3ヶ月から6ヶ月と告げました。ご両親は涙を流しておられましたが、ご主人はすでに覚悟していたのか黙って聞いていて最後に「子供のようにわがままな家内で先生にはご迷惑をかけますが、どうか苦しみだけは取ってやって下さい。」と言われた言葉に男らしさと潔さを感じました。お世辞にもイケメンとは言えないご主人に美人の奥さんが惹かれた理由に思いを巡らせながら、「出来る限りの手を尽くしますから」と答えました。当時の慣例で患者さん自身にはガンを伏せ、カビの一種による重症の肺炎と説明し「強い薬を使いますが頑張りましょうね。」と励ましました。

治療を開始しましたが、予想通り抗癌剤の効き目は悪くガンの進行は急速でした。20数年前、腺癌の最新の抗癌剤はシスプラチンという薬でしたが、投与後に腎臓を保護するため500ccの点滴を10本もしなければならず患者さんは大変でした。また化学療法には全身倦怠感や白血球減少による気管支炎や肺炎などの合併、腎障害肝障害など重大な副作用を伴います。しかも悪者ほどしぶといというか、ガン細胞は抗癌剤に対して容易に抵抗性を獲得する能力を備えているらしく、何回か投与していくうちに徐々に効果がなくなって来ます。効果判定のため撮影したX線やCTの結果を見ながら、益々進行して全肺野を覆い尽くすほどに拡大して行く体内からの侵略者を恨んで、一人夜中の医局で無念さと無力感におそわれたものです。

症状は咳、喀痰に加えて、脊髄神経への転移による激しい腰痛や体中の痛みのためモルヒネを使わざるを得ませんでした。毎朝大学病院の東7Fにある個室に回診に行く度に、「先生本当に私の病気治るの?」「痛いからどうにかして!」という悲痛な訴えに、私の気分も足取りも重くなったものでしたが、ある朝いつものように「お早うございます。気分は如何ですか?」と尋ねると、何と「いいです」という答えが返って来ました。いつもなら沢山の訴えが続くはずなのに、、、“あれ?どうしてしまったのかな?”(次の記事に続く)

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Vol.23 肺がん告知せず(その1)

このコーナーを始めてからちょうど2年になります。最近患者さんや色々な知り合いの方から「先生の医者冥利を毎月楽しみに読んでいます。」とか「あの話は○○病院のことですね、、」というメールやお手紙などを戴き、予想せず多くの方に読んで頂いていることが分かり、これからも頑張って書いて行こうと気分を新たにしました。

私は医師になってもう25年です。今までに数え切れない多くの患者さんを診て、沢山の人々と出会い、そして色々な経験をして来ました。時に悩み挫折してそれを乗り越えまた壁に当る、そんな人生の繰り返しでしたが、今でも目を閉じれば鮮明に蘇って来る数々の思い出深い患者さんや素晴らしい人々との出会いを通して、それら全てが医師として人間としての私の大きな財産であり誇りです。

今回は、以前もこのコーナーで「天国の父親からのメッセージ」でもお話ししたように、岐阜大学附属病院第2内科で研修医時代に担当した患者さんのお話です。患者さんは当時30代の女性で肺癌でした。1年前に当科へ入院されて精査の結果、病理診断で腺癌と診断され3ヶ月間の治療されましたが、再発で再び入院されて来ました。肺癌は一般には男性の喫煙者に多いと思われがちですが、病理診断で4種類の型があり、男性喫煙者に多いのは扁平上皮癌というタイプで、この患者さんのように腺癌は喫煙とは関連なく男女の差もありません。この女性は、ご主人と可愛い小学生二人の女の子の4人家族でしたが、とても綺麗な方で、まさに美人薄命(健康な美人から文句が出そうですが、、)という第一印象でした。腺癌は扁平上皮癌と異なって咳や血痰の症状が出る発見時には既に肺全体に広がって手術適応にならないことが多いため、初回の入院時には抗がん剤投与による化学療法を受けられていました。今回は背中の痛みと全身倦怠感を訴えて入院されました。CT、MRIなどにて検査したところやはり肺癌の広がりが進行していて、加えて脊髄神経への転移と脳への転移が見つかりました。さて患者さんに何と説明するか、研修医で経験も浅かった私は大いに迷いました。現在は医療側にinformed consentの義務があり治療の協力を得る目的でもガンの告知をご本人にすることが多くなりましたが、当時の医療界では殆どしないことが一般的でした。(次の記事に続く)

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Vol.22 美しい山々と心温まる人々、そして白衣の天使

奥三河の病院の院長は、岐阜大学第2内科(循環器科)の私の先輩で、気さくで飾らないTVドラマの無医村の医師Drコトー(ちょっと違うかな?)という雰囲気の先生でした。そうすると私の役は大学から派遣された血気盛んなまだまだ経験不足の若手医師というところです。
大学病院の重症患者さんの状態が悪化すると、パートの病院へ行くのが遅れて夜になったり、勤務途中の夜中に大学病院からの連絡で急遽呼び戻されてしまったり、様々な無理をお願いした記憶です。

仏法僧で有名な鳳来寺山のふもとにあって、スタッフも患者さんも近所の顔見知りという感じでいつも和気あいあいとした雰囲気に包まれていました。大学病院の看護師は勉強会や研究会などで確かによく勉強しますが、自信もキャラも強くなるためか当時は婦長クラスともなると研修医からは皆恐れられていたものです。
この病院では、肝っ玉母さんのような婦長さんや年令の割りに若々しい看護師さんなどもいて、仕事の合間に出る会話はご主人やお子さんの話夕飯のメニューなどです。たまに家庭生活のうっぷん晴らし(?)からか、食事会やカラオケ飲み会があって私も飛び入りでよく参加しましたが、私にとっても大学病院での忙しく喧騒に包まれた生活の気分転換に大いになったものです。

ところで、どんな病院にでも白衣の天使のようなナースが一人はいるものです。田舎の病院には珍しく若くてとても可愛い看護師さんがいて、患者さんだけでなくスタッフからも可愛がられて人気がありました。
私が感心したのは、彼女は自分のことを鼻にかけることが全くなくて、育った環境からかどんなお年寄りにも大変優しいことでした。当時私も30歳と若かったせいか、彼女が私の外来や往診に付いてくれたり、当直が同じだった日には何となく胸がときめいたものでした。
深夜の急患で忙しくて眠れなかった当直の朝、彼女が「先生、お早うございます。昨夜は大変でしたね。お疲れ様でした。」と笑顔で医局へ朝食を持って来てくれると、全ての疲れが吹き飛んでしまう気分でした。

何年間か週に一度、岐阜から車や電車で2時間かけてこの病院へ通いましたが、美しい山々の風景と人々の心の温かさが今でも私の思い出に残っています。

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Vol.21 往診はお年寄りとの心温まる時間でした。

(前の記事の続き)奥三河の病院の往診は、山間や畑の中に点在する家を訪ねて寝たきりのお年寄りを診察するのですが、殆どの患者さんは「no change(変化なし)」の所見です。看護師さん(当時は看護婦さんと呼んでいました)が注射や点滴をした後で、お茶やお菓子を頂きながら家族と一緒に病気の話や世間話などして、いつも忙しい診療に追われる大学病院や都会の大病院の勤務からは想像もつかないくらいにのどかなものでした。

雑談の時間の方が診察時間よりも長いくらいでしたが、実は患者さんも家族も雑談の方を楽しみにしていたのかも知れません。私自身は実家や親戚が旧い家で、幼少時からお年寄りに囲まれて育ったせいか、お年寄りにはいつも自分の祖父母のような親近感を感じていました。

そんな私の気持ちが伝わるのか、赴任先やアルバイトで勤めた色々な病院で、当時若くて孫のような私を大変に気に入って可愛がって(?)くれて、私の外来は沢山のお年寄りでいつも込み合っていたものです。何故かお爺さんよりもお婆さんの方が多かったのは、私が母方の実家のお婆ちゃん子だったせいか、、それとも女性の方が男性よりも平均寿命が長かったためか、、、

当時の往診患者さんの中でよく憶えているのは僧帽弁狭窄症という病気のお婆さんでした。心臓弁膜症で根本的には手術が必要ですが、お歳もあり当時は内科的な治療が一般的で寝たり起きたりの生活を送ってみえました。お爺さんが献身的に世話をしていてとても仲のよい微笑ましいご夫婦で、私も往診が楽しみでしたが、「この間は野猿の群れ(やっぱり!)が畑を荒らしに来て怖かった」とか離れて暮らしているお子さん達のお話などをよく聞きました。

私の大学病院の勤務変更で、最後の日となった往診に行くと、お二人が目を真っ赤にして別れを惜しんでくれました。私も思わずもらい泣きしそうになりましたが、「またいつの日にかこちらへ来る機会には必ず特別に往診しますからね。」と言ってお別れしました。その後何年か経って奥三河へ行く機会があったのですが、残念ながらすでに約束を果たすことは出来ませんでした。

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