美しくて豊かなバストはいつの時代も洋の東西を問わず女性ばかりでなく男性にとっても憧れの的です。私が美容医療の世界に長年いて感じるのは、女性のバストに対する強い「憧れ」と「こだわり」です。最近の女性の目覚しい美意識の向上と美容医療への関心が益々その傾向を強めているようです。人にはそれぞれ色々な悩みがあるものですが、女性のバストに対する思いは男性からは到底想像も出来ないくらいに強いものがあることを改めて感じたお話です。
42歳の女性がバストのご相談で当院に来院されましたが、外見は大変に若々しくて美容外科医の私の目から見ても30歳位にしか見えません。ところがお話は「20代の頃は大きさも形もキレイで張りもあったのに、2人の子供を出産して授乳をしたら垂れて小さくなってしまって今は見るも無残でとても悲しいです。」とすっかり自信をなくされている様子でした。
本当は、垂れて小さくなったバストは2人のお子さんを育てて来られた母親の証であり誇るべきものです。文学の世界でも「たらちねの(垂れ乳の)」は「母」を表す枕詞です。私はいつも患者さんのご相談やお話を徹底的に聞くことにしていますので、この方もカウンセリングがかなり長引いてスタッフが時間を心配していましたが、詳しく聞いてみると原因はご主人の浮気にあったようです。この女性は、ご主人の浮気の原因が自分のバストにあると結論された訳です。その希望はバストを以前のような若々しく張りのある状態に戻すということです。まさに”Mission imposible”です。
現在の状態は、元々大きかった乳腺と乳腺脂肪が授乳後に縮小したため伸びた皮膚や周辺組織とのアンバランスが原因のため、手術は過剰になった皮膚を切除しながらバストの中身を人工乳腺(バッグ)で増大する方法でマストペクシー(バストリフトアップ術)と豊胸術を同時に行うことに決定しました。
ご主人の浮気が原因でバストの手術を決心された42歳の女性は、マストペクシー(バストリフトアップ術)と豊胸術を同時に行うことになりました。女性のバストは乳腺と乳腺脂肪で構成されており、授乳時一旦大きくなった後は年令とともに小さくなって垂れ下がってしまいます。今回の手術では、先ず伸びてしまった皮膚を切除すると同時にその傷痕を利用して豊胸術バッグを入れる方法です。マストペクシーや乳房縮小術には数多くの方法がありますが、余剰の皮膚を切除しつつ自然で美しいバストの形を作るのは中々難しく、同時に豊胸術を行うために術後の血行障害や傷痕など高い技術と長い経験が必要な手術の一つです。
特にこの方の術前のデザインには長い時間をかけました。切除する皮膚の量と位置で乳頭乳輪のリフトアップの位置やバスト全体の形が決まるからです。豊胸術には最新のコヒーシブシリコン(外膜が破れても漏れない凝集性シリコン)のスーパーアナトミカルタイプを用いました。手術は先ず控えめに皮膚を切除して、乳腺の下にスペースを作成してバッグを入れ、バスト全体のバランスを見ながら少しずつ修正していくという細かい方法です。
長い時間の手術でしたが、無事終了し麻酔から覚めた時に患者さんが言われた「きれいな胸になった?」という言葉は今でも私の耳に残っています。今回の手術ではバストに対する「こだわり」と「思い」を強く感じました。結果は期待に応えることが出来たようで、検診時には表情まで自信に溢れて輝いて見えました。確かに美しいバストは輝く女性を作りますが、ご主人の浮気がその後どうなったのかは分かりません。